Walking wounded

Top

矢吹丈と降り注ぐ雨

僕は「あしたのジョー」が好きです。これまでの人生のなかで、あらゆる意味で矢吹丈は僕にとって唯一無二のカリスマでした。「あしたのジョー」を語るとき、人は力石徹の名を口にします。あのあまりにも有名な力石との一戦で「あしたのジョー」は終わったと思い込んでいる人もいます。でも「あしたのジョー」は実は力石戦以降が面白いと僕は思います。テレビ版で言うところの「あしたのジョー2」です。

力石戦での心の傷が癒えず、どこへともなく旅立った矢吹丈が、再び泪橋に戻ってくるところから「あしたのジョー2」は始まります。そもそも丈は人を見れば殴り飛ばし、札付きのワルとして送致された少年院でボクシングを学んだわけですが、力石戦の後、地方でのどさ回りや世の中の敗者と呼ばれる人たちと関わり合う中で、人間として大きく成長し、ドヤ街のヒーローとしてチャンピオンへとのし上がっていきます。



財閥令嬢にしてボクシングジム会長である白木葉子もまた、「あしたのジョー2」で成長を遂げます。丈と葉子は仇敵として出会い、激しく憎しみあいながら、葉子は無意識のうち野生そのものの化身である丈に魅かれていきます。しかしその魅かれ方は一種倒錯的で、丈の野性を見たいがために、丈を翻弄し、結果として丈をパンチドランカーへと追い込んでしまう。愛と呼ぶには独善的な貴族趣味さえうかがえます。

「あんたって人は、ときどき思いもかけない運命の曲り角に待ち伏せしていて、ふいにおれをひきずりこむ。まるで悪魔みたいな女だぜ」
「迷惑だったかしら…」
「迷惑なんかじゃない。その悪魔がおれの目にはヒョイと女神に見えたりするからやっかいなのさ」

おそらく葉子は丈のなかに、自分そのものを見いだしていたのかも知れません。そして最後は自らが仕組んだタイトルマッチへ、ぼろぼろに傷ついた丈を送り出す羽目になってしまう。懸命の制止をも振り切り、リングへと向かう丈を思い泣き崩れる葉子。「あしたのジョー」とは、結局は葉子が用意した運命のレールの上を、丈が全力で疾走し瓦解する物語ということができるかも知れません。

「あしたのジョー」の「あした」とは何なのか。物語には執拗に不幸の影がつきまとい、丈は宿敵の力石にもホセにも勝つことはできないまま、白い灰となって燃え尽きる人生を選びます。敗北というにはあまりに崇高な最期。先日あらためてDVDを見返してみたのですが、これほど雨のシーンが多いアニメってあるのかな、と思いました。矢吹丈が背負った運命そのもののように、暗い路地に雨は音もなく降り続くのでした。
c0080716_228875.jpg
c0080716_3412626.jpg
YouTube:「世界一の男の待つリングへ」
[PR]
by unchained_melody | 2007-05-17 03:00 | Diary