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Walking wounded

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職業病

日曜、夜10時からヨメとふたりタクシーで広尾のイタリアンへ。元は西麻布のレッドシューズにいて、その後ミラノで修行したオーナーシェフが一人で切り盛りしているカウンターだけの店。トマトスライスで始まり鹿肉のステーキやらペペロンチーノまでしっかり食べて、そのあと散歩がてらぶらぶらと白金台のカフェへと移動。外装は古い長屋の趣。のれん越しに聞こえてくるターンテーブルのジャズの音。熊本出身のオーナーと超美人で酒豪の奥さん、そしてバイトの聖心女子大2年のケイちゃん。オーナーは現役のクラブDJで、店にはレディメイドの小西氏もよく現れる。

最初僕とヨメの二人で飲んでいたのだけれど、日曜の夜のせいかほかに客がいないこともあり、途中からオーナーやオーナーの奥さんも合流し、ささやかだけど楽しいパーティになった。お店をクローズし、5人でソファのある2階のプライベートルームに移動。天井の丸い窓から黒い雨空が見える。音楽は映画"I Am Sam"のサントラ。ビートルズのカバーアルバムは掃いて捨てるほどあるけれど、なかでも最良のひとつだろう。

ヨメは大酒飲みなので、飲み始めるとたいてい酔いつぶれるまで飲む。明日は病院が休みなので目が座っている。4時過ぎ、オーナーたちに送られ店を出てタクシーを拾った。ヨメをシートに押し込んでから、運転手に行き先を指示。なんだかなー、と僕が独り言を言うと、わかりますわかります、とヨメがすかさず言う。ふと顔を見るとすやすやと寝息を立てている。寝言か・・。酔うと夢を見ながらよくしゃべる。
「いやならやめちゃえばいいじゃないですか、いまは私が働いているんだし」
一体どんな夢を見てるんだろう。
「やめちゃうということは、最も前向きな衝動だと思うんですよね、私は」
「やめちゃってどうするの?やめグセがついて、またやめたくなっちゃうよ」
僕は適当に合わせてみる。
「だったらまたやめればいいんです。やめてやめてやめ続ければいいんです」
タクシーは狸穴の坂を抜けて行く。ワイパーが雨の雫をかき分ける向こうに、マンションの灯りが見えてきた。
「今は僅かだけれど、そのうち私ももっとたくさん稼げるようになります」
なんか都会のすみっこで身を寄せ合う虐げられたカップルって感じでおかしかった。僕は笑いをこらえ窓の外を見ている。車を降りるとき、お客さんいい奥さんもらったね、と初老の運転手が言う。
「うちなんかタクシーやめるなんて言った日にはどんな目に遭うか」。

僕は後ろ手におつりを受け取り、ヨメを背中に抱え、マンションのエントランスをくぐる。華奢なくせに飲むと急に重くなる。ヨメはエレベータのドアが締まるベルの音を合図に、次の方どうぞ、と酔っぱらいの声で言う。

Revised from caviar+
by unchained_melody | 2007-07-20 15:50 | Diary