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Walking wounded

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デビューの頃

最近ではそういう仕事はなくなりましたが、今の仕事をはじめたての頃は、レコーディングの合間にアーティストのツアーに同行したりしていました。行く先々で夜中まで飲み歩き、毎晩楽しく過ごしました。彼女は僕が最初に曲を書かせてもらったアーティストでした。ツアー先で僕たちは二日酔いの抜けきらないまま、某大型CDショップ主催のミニイベントに出向きました。100人くらいはいる会場に半分くらいの入りで、しかもほとんどは彼女の名前さえ知らない様子。会場のグランドピアノは調律がひどくて、直前になって僕がアコギを弾くアンプラグドスタイルに決定といういい加減さ。

ついたてで仕切った楽屋で彼女はオレンジジュースを飲みながら、ピアノくらい用意しとけよな、と独り言のように言い、コード譜を書いている僕の手に自分の小さな手を重ねるようにしました。僕が譜面から顔を上げると、この街で暮らしたくない?と言って僕の顔を覗き込みました。僕がその言葉の真意を考えているうちに会場でMCが始まり、まばらな拍手とともに彼女の名前が呼ばれました。僕たちは楽屋を後にし、話はそれきりになりました。あれから何年か経って、彼女もビッグネームになってしまいましたが、僕は今でも時々彼女の小さな手を思い出します。その手を取って、二人であの小さな街で暮らしていたらどうだったんだろう、と思うことがあります。
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by unchained_melody | 2007-04-16 00:34 | Diary